#006幸せになりたい
気分が沈んでいる時、幸せになりたいと思う。
幸せな時、この幸せがずっと続けばいいのにと思う。
ずっと続く幸せってなんだろう。
忙しい日々の中、時が止まったような日曜日にそんなことを考える。
幸せは多くの人が追い求めるものだろう。
恋人がいる、仕事で成功する、友達と遊ぶ、家族と過ごす…
幸せの瞬間は人生でたくさんある。
恋人がいる、仕事で成功する、友達と遊ぶ、家族と過ごす…
気分が沈む原因になることも人生にたくさんある。
多くのことは幸せと不幸せが表裏一体になっている。
その理由を考えていると、ずっと続く幸せの正体が見えてきた。
うるさいところに行くと、初めはうるさいなと思うけど徐々に慣れてくる。
うわっ、変な匂い…と感じるところに行っても徐々にそこまで気にならなくなる。
部屋が暗くなったら初めは何も見えないのに、徐々に見えるようになってくる。
これは「順応」と呼ばれる人間の感覚の特徴だ。
免許を取った人はトンネルの話で暗順応や明順応と習ったことがあるだろう。
星は明るさで1等星、2等星、と分けられていて一番暗いものは6等星とされている。
例えば一番暗い6等星の明るさを1、一番明るい1等星の明るさを100としたら、5等星の明るさはどうなるだろうか。
6つ並んでいたらその「間」は5つになる。( ○↔︎○↔︎○↔︎○↔︎○↔︎○ )
だから普通に考えたら100÷5をして5等星の明るさは20になるはず!と考える。
しかし実際は5等星の明るさは約2.512と決められている。
これはウェーバー・フェヒナーの法則と呼ばれる法則に由来する。
人間の感覚量(心理量)、つまり感じ方の大きさみたいなものは直線的に比例するのではなく、高校で習った「対数」的に比例するという話だ。
さっきの2.512というのは100の1/5乗である。
星の明るさの答えを書いておくと、
6等星を1としたとき、5等星は2.512、4等星は6.31、3等星は15.85、2等星は39.81、そして1等星は100となる。
こうやって数字で見ると、2等星と1等星の差に驚く。
ウェーバー・フェヒナーの法則は、人間の感覚が僕たちの直感とは少し違うルールで決まっているらしいということを教えてくれる。
上のランクを目指そうとする時、初めのうちはスルスルと上がっていくように感じるが、後半はひとつ上がるのにそれまでの数倍かかるのだ。
同じような効果として経済学で限界効用逓減の法則もあげられる。
ケーキを食べたいと思ったときに美味しいケーキを食べると幸せに感じる。
ただそのまま2つめにさらに美味しいケーキを食べた時、1つめと同じだけの幸せを感じるだろうか。
おそらくちょっとは嬉しいけど、はじめほどの幸福感はない。
まとめると、僕たちはあらゆる感覚に「慣れ」やすく、その大きさの違いの感じ方は「直線的でなく」大きくなるほど変化を感じにくい。
順応やウェーバー・フェヒナーの法則、経済学の限界効用逓減の法則などはすべて同じような概念でまとめることができると思う。
僕はそれを「人間の相対的感覚」と呼んでいる。
そしてこれがずっと続く幸せに深く関わっている。
幸せな状態になると、いつかその幸せに慣れてしまう。
ずっと幸せに感じるために次の幸せを望む。
初めのうちはどんどん幸せの階段を登ることができる。
しかしあるとき、トンとこれまで通り順調に登れない段が出てくる。
すでにある程度登ってしまったら落ちる確率が高まっているのは道理だろう。
自然現象はエネルギーが低くなるように設計されているからりんごは木から落ちるのだ。
このあたりは「運をコントロールせよ」などとよく言われている。
「悪いことがあったら次はいいことがあるよ」というのも同じ内容だ。
良いことや悪いことは世の中基準で起こるのではない、自分自身の「相対感覚」によってそう感じているだけなのだ。
とすれば、逆にこれを利用しない手はない。
自分の状態を分割して、幸せと不幸の帳尻を合わせれば良い。
分人というのは#001パッチワーク仮説とよく似た(あるいは全く同じ)概念の話で、自分というひとりの人間は複数の「分人」のネットワークだという考え方だ。
この分人的感覚のそれぞれで幸せと不幸せをコントロールすれば良い。
会社の自分が落ち込んでいれば、家の自分は少しハッピーになるように美味しいものでも食べる。会社でうまくいっていれば、家の自分はおとなしく過ごす。
こうやって全体でバランスを取っていくのが大事だと思う。
あとは意識的に自分を複数化することが重要かと思う。
僕自身もかなりひどいネガティブ思考で、これまでは夜家に帰るとその日のことを悩むような人間だった。
あの時こう言っていればもっと良かっただろうかとか、そもそもきていく服を間違えたかもとか、他人から見たらどうでもいいようなことがぐるぐる頭を回っていた。
しかし、この複数の自分を意識すれば時間で自分を切り替えることができる。
Aの自分は研究しないといけないし、Bの自分は友人とのプロジェクトに取り組んでいて、Cの自分はじっくり本を読んで考え事をする、みたいに次々複数化した。
すると頭のぐるぐるは一気になくなって、毎日が少しずつ明るくなった。
恋人がいる、仕事で成功する、友達と遊ぶ、家族と過ごす…
全てが幸せの種にも、不幸の種にもなる。
幸せになりたいというのはみんなの願いだ。
その願いは自分の感覚の仕組みを自覚してからなら、もっと叶いやすくなるのではないだろうか。
月曜日が辛くなるか幸せになるかは、自分でコントロールしたいのだ。
良い日曜日を。